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ちょっと休むから~。気にしないでくれ~。へ~う~らっらっら、へ~う~らっらっら


by mojo-the-lightnin

軋轢街道ぶらり旅覚え書

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岡山から尾道を経由して、そのまま南下し桂浜まで行くつもりで旅路についたが、いい加減腰を落ち着けて引っ越しの準備をせぬかと、父親から大喝を喰らったので、切り上げて帰ってきた。ちょうど因島の村上水軍城をうろうろしているときで、この辺りの島は交通の便がすこぶる悪く、昼夜歩き通しの俺のひ弱い脚はすでに悲鳴をあげていた。ただ異常に気持ちは澄んでいて、疲労が膝下からゆっくりと溜まっていくのがどうにもくせになった。それというのも自分であれこれと行程を練って旅をしたことがなかったので、これは新鮮だった。旅というものを私はこの年まで、全く知らずに過ごした。この遊歴のおおよその目的は尾道でかつての自分の血肉であった映画に対する熱情を葬り、新生活のために桂浜にて才谷梅太郎から天啓を受けるというものである。しかし、この進捗はどうもそぞろで萩にて松下村の門戸を叩くといったころあいの方がよいのではないかと道中何度も逡巡した。目的などどうでもいいのである。どうでもよくなれば、何処へでも行きたくなる。それは歩けば歩くほど冴える。笑い事のようだが、坂のうねりやホトトギスの親子が春鳴きの練習をする声や海と波を見ているだけで心が躍る。海というものは山間に袖を振って育った山猿にはやはり特別に素晴らしい。そういった楽しみを全く知らずに過ごしたこれまでを少し恨んだ。

お前は普通の人間である。学も並、体も並、芸も並、あるのは人一倍の虚栄だけだ。と、ちょうど20歳のとき父親からいわれた。そういう父親には両親がおらず、彼は俺と同じ頃、親代わりの親戚に当たる村の豪傑から同じように言われたという。「あれは俺の言葉では無い」と昨夜酒に酔って彼は注釈を加えた。言葉というものは面白いもので、伝わらないときには仏舎利に生えた苔のようであるが、わかるときにはそれが言い終わらぬうちから心身をエレクトリックギターよろしく突き抜け魂魄を改める。人は人を以て人を成すなどという大それた文言を不良に毛の生えた品のない男が、一体どの口でのたまうのかと思ったが、合点がいった。不思議と要領を得た。彼もそれで一歩踏みとどまったのだ。血管をひきちぎって飛ぶ心を仁王のような形相で胸元に抑え自らを顧みたに違いない。ここへ来て相通じてしまった。馬鹿め、ばつが悪いではないか。まあ、いいや。また、春が立つ。心はなはだ急ぎ、飛ぶが如く飛ぶが如く

For The Price Of A Cup Of Tea
Belle & Sebastian
by mojo-the-lightnin | 2006-03-31 04:21 | 日常ブギー